【随筆】東北地方の神秘世界、私が見た「世界の終わり」と神隠し

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田畑と町並みと曇り空(仙台空港付近)

私、木村邦彦の生まれは仙台です。北国の生まれだと言うと、5人に4人くらいはこう反応してくださいます。

「それではさぞかしスキーやスケートが上手なことでしょう」

期待を裏切るようですが、北国育ちだからといって、スキーができるとは限りません。東西に延びるこの街の地形にも理由があるようにも思えます。

国土地理院による2018年の調べでは、仙台市の面積は約786平方㌔㍍。東京都の特別区約627平方㌔㍍よりもやや大きい程度です。仙台は東西に長く延びる都市のため、山間部と沿岸部では気候も大きく違います。生まれ育ったのは、太平洋沿いの平野。雪は少なく、まして周りに山はありません。

仙台平野

周囲にある娯楽施設といえば、パチンコ屋とラブホテルばかり。そして田畑が地平線まで続きます。ど田舎ゆえに、独特の神秘的な光景を目にすることもあります。高校生の頃、女子高校生が神隠しあう瞬間を目撃したことがありました。

里離れたクソ田舎に住んでいた関係で、高校も同様に世界の終わりのようなクソな辺境地にあり、自転車通学で毎日12㌔㍍も往復する羽目になりました。周囲は地平線まで続く田畑であり、北風が吹けば遮るものもなく、その勢いは突風やつむじ風そのものです。世界の終わりで吹く風は、金星の風ほどに、なんの遠慮もなく自転車に向かって襲いかかります。仙台という世界の終わりは、無知と精神論が支配する暗黒世界でもあり、そんなへき地に捨てられた高校生の魂は学校という幻で世界の始まりに向いた出口を探し、日々さすらうばかりなのでした。

映画「八甲田山」より

あれは12月のことでした。この高校の生徒たちは、地平線まで続く田畑のなかに延びる道を雪の八甲田山を行進する兵士のように、列を組んで自転車をこいでいました。

この日、私の1㌔㍍ほど先に女の子が乗る自転車が走行していました。スカートをはためかせ、ティーンエージャーの色気はそれなりに漂わせてもいました。このような光景はいつ見てもいいものですね。ところがそんな悠長なことを言っていられない出来事が起こります。

その女子が、一瞬にして消えたのです。未確認飛行物体に連れ去られたかのような一瞬の出来事でした。私は、あれ、消えた。どこいった? と、きょどっていますと、地底人が現れたように道路脇から手が見えました。つまりこういうことです。

蝶よ花よと青春を謳歌する女子高校生が朝っぱらからドブに落ちるのも、この土地ならではの光景だった

蝶よ花よと小躍りするように青春を謳歌しているはずの女子高校生が、用水路という名のドブに落ちてしまったのです。これを見て私は「そうか、仙台における神隠しとはこういうことだったのか」とつぶやきました。

ウィキペディア先生によれば、金星の「雲の最上部では時速350㌔㍍もの速度で風が吹いているが、地表では時速数㌔㍍の風が吹く」そうです。あの金星の風のような、このクソ田舎にしか吹かない独特の突風であおられ、朝っぱらからドブに落ちてしまい、そのまま学校に行かねばならない女子高校生。これが世界の終わりで起きた出来事と言わずしてなんでしょうか。

ウィキペディア先生によれば、金星の地表では時速数kmの風が吹く

幸い、私はドブには落ちず、10代を終えることができました。不思議な情があります。出来の悪い親を思う、出来の悪いクソ息子のような気持ちです。誰か故郷を思わざる。出来の悪い故郷や思い出に対しても、悲しくもそれなりの愛情というものが沸くことを、ピロヤンなみに人生の半分を生き、うっすらと感じ始めています。